ワイヤードでの,凶悪な自分,不誠実な自分,猥雑な自分,アンモラルな自分,淫らな自分。その,もうひとりの私がいるから,この世界は,そしてリアルの私も,生きるにたる。
インフィデリティー・バスターズ・コムというウェブサイトでは,サイバー不倫を調査してくれる。逆にアリバイ・エージェンシーでは,不倫がばれないようにアリバイを作ってくれる。インフィデリティー・バスターズ・コムの創設者は「サイバー不倫は,時代の象徴で,まったく賛同できない」としている。
ワイヤードという空間では,_わざと_別人格を装うというのは,よくあること。人はリアルの癖で,相手の容姿などを想像してしまうが,装っている別人格の裏を見抜くのは難しい。インフィデリティー・バスターズ・コムは,不倫相手を見つけるわけでも,不倫の証拠をつかむわけでもなく,誘って誘って乗ってくるのを待ってるだけ。不倫的な感情を持ったことがない聖人以外は,まぁ誰でも乗りそうな気がするけど…ねぇ。
いつもと同じ仕事をこなしてから,風俗街で客をもてなすOL。自分を卑下しながら毎日単調に書類を処理し続けるが,日曜日には場外馬券売り場の外で自分の予想を熱弁とともにたたき売るサラリーマン。学校で終わらぬ嫌がらせを受けながら,巧妙に身分を隠して企業サイトのセキュリティーホールを攻撃するいじめられっ子。人間は必ずしも一人の自分でいる必要はなく,もうひとりの自分を持つことは,人生を「遊ぶ」ことだ。そして,遊びのない人生など,生きるに値しない。もちろん,それを「遊び」でなくしたときは覚悟が必要だが,ワイヤードでは,その自分を本当の自分とすることができる。思う存分,生きればいい。世界はそのためにあるんだから。
|